それを早く先に言え(カウントダウン編) - 3/7

5日前
「鯉登、ちょっと」
 自席から手招きする尾形にわずかに眉をしかめながら鯉登は席を立った。
「この資料、作り直しだ」
 尾形の席のモニタに表示されているのは土曜の休日出勤の際に宇佐美に指示されて作成したものだ。
「……何か問題でも?」
「元の資料に不備があってな。数字が合ってない。宇佐美が担当に念押ししに行ってるから戻ってきたら修正に着手しろ」
 尾形の説明に宇佐美に詰められる担当者の不運に鯉登は同情する。
「まあ、今回はお前のミスじゃないが、腑抜けてると次はわからんぞ、鯉登『くん』」
 尾形が『くん』付で自分を呼ぶ時はたいてい揶揄っている時だ。
「ご忠告、痛み入ります。尾形『先輩』」
 尾形にまで見透かされるとは業腹だ。鯉登がわざわざ『先輩』をつけたのは、ささやかな、本当にささやかな抵抗である。

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